郵便配達は二度チケットをもぎる

演劇未経験者が、駄文をこねます。

「関数ドミノ」感想:イキウメ プロデュース

かすかな希望の描き方

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★★★★★★☆☆☆☆ 6点

あらすじ

とある都市で、奇妙な交通事故が起きる。
信号のない横断歩道を渡る歩行者・田宮尚偉(池岡亮介)のもとに、速度も落とさず車がカーブしてきた。
しかし車は田宮の数センチ手前で、あたかも透明な壁に衝突したかのように大破する。
田宮は無傷、運転手の新田直樹(鈴木裕樹)は軽傷で済むが、助手席に座っていた女性は重傷を負ってしまう。
目撃者は真壁薫(瀬戸康史)と友人の秋山景杜(小島藤子)、左門森魚(柄本時生)の3人。
事後処理を担当する保険調査員・横道赤彦(勝村政信)はこの不可解な事故に手を焼き、関係者を集めて検証を始める。
すると真壁が、ある仮説を立てるのだった。
その調査はやがて、HIV患者・土呂弘光(山田悠介)、作家を目指す学生・平岡泉(八幡みゆき)、真壁の主治医・大野琴葉(千葉雅子)をも巻き込んでいく。
はじめは荒唐無稽なものと思われた仮説だったが、それを裏付けるような不思議な出来事が彼らの周りで起こり始める――。

ざっくり感想

この舞台には「ドミノ」という概念が登場します。自分が望んだことが自然とかなってしまう特殊な人物のことで、舞台上では“期間限定の神様"という表現もされていました。

この「ドミノ」という存在が、本当にいるのか?実在するとして、真壁が唱えるように「森魚=ドミノ」なのか?ということを主軸に進行していきます。

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この脚本のうまい所は、精神科医・大野の存在で、「自分がうまくいかないことを、ドミノという存在を妄想することで現実逃避する症状」として「ドミノ幻想」という一種の精神病の存在を提示することです。

これによって、観客は「真壁=精神疾患」という可能性まで考える必要がでてきます。

ちなみに「ドミノ幻想」はフィクションですが、あまりのリアリティに終わった後、思わず検索してしまうほどです。

<ネタバレ>救いはどこにあったのか?

ここからは完全にネタバレですが、オチは「森魚=ドミノ」ではなく、「真壁=ドミノ」であったことが判明することにあります。
森魚が起こしていた奇跡は、「森魚=ドミノ」であることを望む真壁が間接的に起こしていたことが判明します。まさに森魚は、真壁の能力が生み出した“関数ドミノ"だったわけです。

話は少しそれますが、「関数ドミノ」には2009年版と2014年版が存在します。
今回の舞台は、2009年版をベースにしていることが脚本の前川知大によって語られていますが、何が違うかというと、

●2009年版
→今回と同じく、ドミノであることに気づいた真壁は自分の能力で傷つけてしまった秋山を必死に救おうとするシーンで終わる。

●2014年版
→登場人物たちの年齢がもっと高く、真壁は自分がドミノであったことに絶望します。
もう人生が取り返しのつかない所まで来てしまっていたからでしょう。
真壁は客席に向かって「俺を見るな!」と絶叫して、舞台は暗転。そのまま終了します。

2009年版を選んだのは、瀬戸康史を始め演者が若く、よりラストに希望が残る方を選択したと、前川自身が語っています。

ただし、今回の舞台で狙い通り「かすかな希望」を描けていたかという部分には疑問が残ります。

というのも、ドミノを追うメンバーに人間味が薄く、感情移入のポイントが少ない。これはバックグラウンドなどを描かずに、スピード感をもって舞台を進めたいという狙いでの演出だと思うのですが、ラストの真壁が秋山を救おうとするシーンにすら人間味が感じられず、どこかシュールな画になってしまっています。

それを見守る横道を始めとしたメンバーも、暗闇の中でボーッと突っ立っており、そこに真壁が一歩を踏み出そうとする希望を感じさせません。
むしろ、彼らははじめから「真壁=ドミノ」であることが分かっており、その実証実験をしていた特殊な組織の人間である、くらいの設定を感じさせるモノでした。
※もちろん、そんな設定は存在しません。

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もし希望を描くのであれば、真壁と秋山の関係にスポットライトを当てるべきだったかなと。

秋山のある種、狂信的なまでに真壁に寄り添う姿は、「真壁=ドミノ」であったことを考えると、真壁が秋山をそばに置きたいという願いから実現されていたものであることが分かります。
秋山への“想い"が本物である以上、おそらくラストで秋山は助かるでしょう。

裏を返せば、唯一の理解者であるはずの秋山ですら「ドミノ」無くしては、獲得できなかったという絶望的な可能性も秘めていますが…。