郵便配達は二度チケットをもぎる

演劇未経験者が、駄文をこねます。

「流血サーカス」感想:柿喰う客@柿フェス

舞台と客席の欺瞞

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★★★★★☆☆☆☆☆ 5点

あらすじ

サーカス団に売り飛ばされた少年の波瀾万丈な冒険譚。
エンターテイメントを愛する全ての人に送る怪奇娯楽作品。
東日本大震災から一週間で創作&上演された問題作を新旧メンバーで再演。

餓死寸前の兄妹が人さらいに攫われて、兄はサーカス団に、妹はお金持ちの家に売られるというメルヘン童話さながらのストーリーです。
兄はサーカス団で人気者になり、いつか妹を迎えに行くと誓うのですが…。

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<ネタバレ>客席は安全ではない

兄が売られたサーカス団は、実は「演者の失敗や事故をウリにした流血サーカス団」であったから、さ~大変。
しかも、兄を探しに「流血サーカス」に来た妹は、あまりにもショッキングな光景に、精神に異常を来し、スプラッター趣味の“猟奇的な彼女"になってしまうという超展開。
兄は「本当のエンタメ」を見せることで、妹の目を覚まそうと奮闘します。

しかし、兄の努力むなしく「妹の狂気」は止まらず、ついに自ら兄を殺害。
「流血サーカス」も、金貨1枚で客席からナイフを投げられる権利付きの、より邪悪な見世物になってしまい幕を閉じます。

ストーリーとしては、こんな感じで怒涛の展開を繰り広げていくのですが、この舞台のポイントは「ふしだらな女」という登場人物。
本編には全く関係なく、いちいち舞台から客席に絡んでくる役どころ。
妖精パック的な役割を持ったトリックスターです。

f:id:mAnaka:20171016173021j:plain※演じる加藤ひろたかさんが素晴らしい。

最後の最後、「ふしだらな女」が客席に向かって語りかけるのですが、この内容がかなり鋭利です。

いわゆる“第四の壁"的なことなのですが、
果たしてナイフを投げる客席は本当に安全なのか?
本当に演者が客席に向かってナイフを投げることはないのか?
自分が客席だと思っているものは逆で、本当は舞台なのではないか?
ということを不気味に説いてきます。

狭い客席でぎゅうぎゅうになって、身動きが取れない中でこのセリフを聞いていると、本当にナイフを眉間に突き立てられているような気持ちに…。

東日本大震災の直後に創作された演劇ではありますが、その後の日本を予言するような内容ですね。
炎上に次ぐ、炎上。燃やしていると思っていた方が、次の瞬間には燃えている。
ちょっとしたことで自分が全世界の矢面に立たされてしまう可能性を持っている。
まさしく、舞台に向かって投げたナイフがブーメランのように戻ってくる日常です。

たかだか数十センチの高さしか違わない「舞台」と「客席」の欺瞞を鮮やかに描いています。

 

60分という短い上演時間で、エネルギッシュに展開される怒涛の舞台ですので、興味のある方はぜひ。新メンバーも躍動しています。