郵便配達は二度チケットをもぎる

演劇未経験者が、駄文をこねます。

「崩れる」感想:アマヤドリ

人間関係という共犯関係

f:id:mAnaka:20171124115355j:plain★★★★★★★☆☆☆ 7点

あらすじ

閉鎖が決まっている山奥の宿「クモの巣」。そこに大学からの仲良し男子4人組が泊まりに来る。宿の従業員含めて全員が男性というなか、外は台風で大荒れに。とある告白をキッカケに、仲良し4人組の関係も荒れてくる。

4人組は数ヶ月前にキャンプを計画していた。女性も4人呼び、4対4のキャンプコンパを予定したいたのだが、女性側に一人ドタキャンが出てしまったためキャンプの計画がお流れに。しかし実際には、幹事であった針谷を除く3対3でキャンプを行っており、キャンプに参加した猪俣は、あろうことか針谷が狙っていた「ミライちゃん」とデキてしまったと言う。その事実を「クモの巣」で突然告げられた針谷は、激昂。会社を辞めると騒ぎ始めた…。

アマヤドリらしくない、男性のみの会話劇。
不在の女性を巡った“崩壊劇”が幕を開けます。

<ネタバレ>一番(気持ち)悪いのは…?

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その後も「ミライちゃん」をめぐり、男たちが言い争いを繰り広げます。
「なんでこいつと仲良かったんだっけ?」と思えてくるほど、お互いの嫌なところが見えてくる。人間の関係なんて、所詮は危うい“共犯関係”でしかないということを、嫌というほど見せつけてきます。

ほぼ崩壊しかけているのに、それでも修復しようとする姿に、男同士ならではの気持ち悪さを感じました。
(個人的にも高校からの仲良し6人組がおり、とても他人事ではなく…。)
女性同士なら、スッパリ切ってしまうのではないのかと…。

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針谷は猪俣が「ミライちゃん」を奪ったことをすでに知っていた、というのが舞台のオチ。針谷は会社で一人リストラの対象を選ぶ必要があり、この「ミライちゃん」事件をダシに、猪俣に自主退職してもらおうと画策していたと告白し、関係が完全に破綻。猪俣は「帰る」と言い残し、台風のなか出ていってしまいます。

しかし、この針谷の告白も強がりにしか聞こえず、痛々しい。
「ミライちゃん」への固執をさらに、さらけ出す結果になってしまいます。

そんな針谷に「クモの巣」の主人である園田は、「自分を卑下し続けるのは、しょせん自分を守り続けていることでしかない」と語りかけます。
まるで観客の気持ちを代弁してくれるような園田ですが、頭の上にはプレゼントとしてもらった王冠をかぶったまま説教していているという、何とも居心地の悪い状態…。
作・演出の広田淳一さんも語っておりましたが、「裸の王様」感が演出されております。

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人間関係において「正義」など存在しない、ということが如実に語られていると思います。人間関係とは、どこまで行っても共犯関係でしかないと。

園田と針谷が語らうなか、雨足はどんどん激しくなり、舞台は暗くなっていきます。

園田「もたないかもな…」
針谷「え?」
園田「あ…」
という不吉な会話を残し、完全に暗転し、舞台は終わります。

「もたなかった」のは、人間なのか、建物なのか…。

アマヤドリの新しいトライとは?

今回の舞台は、女性のみで演じる「青いポスト」との2公演になっており、2つ合わせて「新しいアマヤドリ」と銘打たれています。

そんな「崩れる」で新しくトライされたこととして、広田淳一さんは 「会話の意図的な重ね合わせ」を挙げています。

ふつうの会話を録音して聞いてみると、意外なほど会話が重なっている。
相手が話し終わる前に話し始めたり、相手が入ってきても止めなかったり…。
確かにその通りです。

その「会話の重なり」をあえて舞台で再現したと言います。
どこからどこまでが「重なる」かを、台本でも細かく指定されており、役者は困惑したとか。しかし、舞台を見ている方は、ほぼ違和感なく聞くことができます。いつも体験していることだからでしょう。

アマヤドリの舞台には欠かせない“群舞”も無く、全編会話だけで繰り広げられるリアル劇。このリアリティを手に入れたアマヤドリは、この武器をどう料理していくのでしょうか?

 

女性を“不在”にすることで、より女性の存在を感じさせる舞台でした。
いつも物語を駆動するのは、女性ですね。

 

「青いポスト」の感想はこちら。

theaterist.hatenablog.com