郵便配達は二度チケットをもぎる

演劇未経験者が、駄文をこねます。

「隣の芝生も。」感想:MONO

隣の芝生が青いのは、フィクションである

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★★★★★☆☆☆☆☆ 5点

あらすじ

古い雑居ビルは配管が古くて水回りの調子が悪い。
隣合わせに入居している2つの会社。
互いのことは詳しく知らない。 印象だけで羨ましく思い合っている。
無関係に思われたそれぞれの物語は、いつしか交差し、絡み合って行く。

片方の会社はうだつの上がらない、元ヤクザたちが始めようとしている探偵会社。お世話になった“おやっさん”が持つビルを、格安で貸してもらっている。
もう片方は、兄妹でやっているスタンプ屋さん。友人たちが手伝っているものの、放浪グセのある“お兄ちゃん・新乃助”のせいもあり、経営が行き詰まっている。

ある日、いつもの如く新乃助が失踪。その捜索を、元ヤクザの探偵達に依頼したところから物語が動き始める。

来年30周年を迎える、円熟したMONOの俳優5人と、若手俳優5人が演じる、人情系伏線ミステリーになっています。

<ネタバレ>表面を見れば誰もが幸せ

元ヤクザたちは、どこか間抜けな憎めない奴ら。元々向いてなかった上に、「33K」という香港の団体をモメて、“修ちゃん”という構成員以外はみんな足を洗ったばかり。

組長だった“ボス”は、探偵業を軌道に乗せたいが、「33K」から命を狙われているという噂にビクつく毎日。まだヤクザである修ちゃんが、「33K」の刺客を捕まえるべく雑居ビルに張り込みを開始。怪しいやつを捕まえてみると、なんとそいつこそ失踪中の新乃助でした。

スタンプ屋の金策に困った新乃助は、「33K」からボス殺しの依頼を受けてしまっていたのです。しかし、素人の新乃助はどうすることもできずウロウロしているところを修ちゃんに捕まってしまったという顛末です。

なんともバカバカしい「暗殺劇」であったことが分かり、無事 新乃助もスタンプ屋に帰り一件落着…というわけには、当然ながら行きません。

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おやっさんが倒れたことをキッカケに、“おやっさんの娘・栞”が登場。元々スタンプ屋とも繋がりがあり、探偵屋とスタンプ屋の架け橋的に動き回るのですが、ある日、おやっさんの荷物からトンデモナイものを見つけてしまいます。
実は、おやっさんは組を裏切り「33K」に情報を流すことでお金を稼いでいた内通者。それをボスに気づかれたと勘違いしたおやっさんは、「33K」にボスを殺させようとしていた張本人であることが分かるのです。

その後も、新乃助がただ巻き込まれた訳ではなく、実はおやっさんから家賃を半分にする代わりに探偵たちを盗聴する役割を与えられていたことなどが判明していきます。

若者たちが和気あいあいとしているスタンプ屋にも、薄暗い影が潜んでいたことが浮き彫りになってきます。

直後に修ちゃんも銃撃され、病院送りに。堪忍袋がキレたボスたちは、おやっさんを殺すために特攻を図ります。子供の頃からおやっさんのヤクザ稼業に反感を持っていた栞の協力も得て、武器を片手に突撃していくヤクザたちの姿から舞台が暗転。

エピローグとして、スタンプ屋の現状が語られます。
無事回復した修ちゃんがスタンプ屋におり、楽しげな雰囲気。しかし、どうやら探偵たちは無事には済まなかったようで、探偵屋は廃業している模様。 相変わらず新乃助は失踪しているものの、妹の“波留”も「お兄ちゃん離れ」をして、予てからの夢だった留学に行く準備を進めています。この波留が舞台で最も裏表がない人物なのですが、そんな彼女にも秘密がある…という匂いをさせて、舞台の幕が閉じていきます。

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裏切り者は誰だ?

ヤクザたちが無事でないのに、修ちゃんと栞が日常に戻れているのはおかしな話。つまり、修ちゃんと栞は「33K」と繋がったおやっさん側の裏切り者です。繋がりのないはずの修ちゃんと栞が、なぜか一緒に登場することが多かったことも頷けます。

新乃助が刺客のフリをした、スパイだったのはすでに言及したどおりですが、そうなってくると波留すら怪しい存在に。
新乃助が隣を盗聴していることも気付くはずですし、舞台のなかでは長時間トイレに入っている描写もありました。「トイレ掃除していた」と言い訳していましたが、新乃助の代わりに盗聴していたと考えれば合点がいきます。

そもそも金策に困っていたにも関わらず、このタイミングで留学に行けるのも不思議な話です。留学費は、コトが片付いた「33K」からもらった報酬と考えるのが自然ではないでしょうか?
天真爛漫なフリをしてヤクザたちをハメた波留に寒気を覚えます…。

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MONOらしい独特の「言葉づかい」や「間」や「登場人物」にほっこりした笑いが生まれるのですが、その裏でこんな凄惨な企みが渦巻いていることにゾッとします。

隣の芝生が青く見えるのは、隣のことをよく知らないからだ。
内情を知ってみると、結局「隣の芝生も」…。