郵便配達は二度チケットをもぎる

演劇未経験者が、駄文をこねます。

『「 」』感想:エンニュイ

言葉が脱色される瞬間

f:id:mAnaka:20180713153732j:plain★★★★★☆☆☆☆☆ 5点

あらすじ

突然流行りだした言葉を失う奇病。
最終的には存在が消えてしまうという…。

こんなイントロダクションから始まる舞台ですが、この病にフォーカスするかと言えば、そんなことはありません。むしろ、こんな病気が流行っている中でも、当たり前に繰り返されている日常に焦点を当て、その本質をあぶり出そうとしています。

舞台となるのは、「IT系の小さな職場」「オカルトサークル」「動画配信者」など、“言葉”の存在が比較的大事な空間。登場人物たちは、そこでコミュニケーションを取ろうとするのですが、ズレるズレる…。

<ネタバレ>言葉が行き場を失った先に

場面はコロコロ切り替わり、ストーリーは安定しないのですが、常に共通しているのが「伝わらなさ」。

職場では、上司-部下の思いはズレ。
オカルトサークルでは、常連-新入りが噛み合わず。
ネット上では、配信主-視聴者のやりたいコトは乖離していく。

登場する人々は、言葉を失っているワケではないのに「伝わらない」。これは、舞台上に限らず、見ている自分たちにも矛先が向いています。

f:id:mAnaka:20180713161943j:plain

登場人物たちには、「子どもが生まれる」「母親が死ぬ」など人生の一大事が降りかかるのですが、そこで発せられる言葉も宙を舞う。

グッとくる言葉も、うわさ話も、与太話も、嘘も、すべてがフラットになり、上滑る。
言葉も、歌も、ラップも、能も、伝わらない。

それでも「関係欲求」を持つ登場人物たちは、叫び続けるしかない。

f:id:mAnaka:20180713165133j:plain

ラストの場面では、それぞれが語っていた言葉を、別の人間が語りだします。ここで言葉は完全に脱色されてしまいます。「言葉を失う奇病」とは、こういうことなのでしょう。

彼らはペンライトを持って、語りかけます。ペンライトは、言葉の向かう先を照らしているはずです。しかし、その光は、虚空を、壁を、自分の口元を照らすだけで、他人に向かわない。ここでも「伝わらない」絶望が表現されています。

キレイな光の点滅と、そこに横たわる恐怖を感じながら、舞台は幕を閉じます。

f:id:mAnaka:20180713165806j:plain

書きぶりが怖くなってしまいましたが、お笑いコンビのメンバーとしても活動されている長谷川優貴さんが脚本をされているため、随所に笑わされる場面も散りばめられています。

どこか幻想的なのに、笑える。怖い話なのに、クスクスする。なんとも不思議な舞台でした。