郵便配達は二度チケットをもぎる

演劇未経験者が、駄文をこねます。

「ロリコンのすべて」感想:ナイスストーカー

ロリコンとは切ない生き物である。

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★★★★★★★★☆☆ 8点

あらすじ

担任教師の坂倉に想いを寄せる11歳の少女・白勢。坂倉はその想いを拒絶し続ける一方で、彼女の裸の写真を隠し持っていた。誰にも明かさずにいた、ロリコン教師の罪の告白。遠い未来、砂の中から発掘された彼の手記を読んで、考古学者達は何を思うのか…。

ロリコン教師の手記が、遠い未来に発掘され学術的に研究されるハメに。ただし、手記の内容に曖昧な部分が多く、数々の解釈がなされます。一番の論点になっているのは手記に収められている「裸の少女の写真」は一体だれなのか?その検証を行うために、手記を演劇として再現しようという試みが始まる…。

という、劇中劇の複雑な構造をしています。
ロリコン」という概念を生み出したウラジーミル・ナボコフの『ロリータ』も、主人公が獄中で記した手記という体裁を取っているため、本作もそれに倣っています。

構造は複雑ですが、あくまでも焦点はロリコン教師・板倉と、少女・白勢の恋物語。(これは『ロリータ』も同じですね)

<ネタバレ>救えねぇな、このロリコン野郎!

劇中劇のため、場面や登場人物が入り乱れるのですが、板倉と白勢に絞って見れば、単純な(?)恋物語です。

一貫校の高校教師だった板倉は、たまたま教科担当として小学生も担当することに。そこで当時小5の白勢に出会い、恋に落ちます。白勢も板倉を愛しています。
そんななか、ひょんなことから板倉は着替え中の白勢を覗いてしまいます。そして、あろう事か、その一糸まとわぬ姿を写真に収めてしまいます。これが、問題になっている「裸の写真」。

そんなこんなありながら、一貫校ということもあり、中学〜高校と白勢と板倉の微妙な関係は続いていきます。

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そして白勢 高3の冬。明日18歳を迎え、ついに二人が付き合うことが「合法」になるタイミングです。白勢は改めて板倉に気持ちを確かめますが、板倉は相手にしません。あくまでも教師と生徒であると建前を述べますが、ロリコンの板倉には18歳は対象外…。白勢はそれに気づき、板倉の前から姿を消します。

しかし、板倉はようやく自分の気持ちに気づきます。ロリコン・板倉としては、いまの白勢は愛せないが、人間・板倉としては白勢を愛している。そんな単純なことに気づけなかった板倉は、白勢を傷つけた自分を呪いながら、白勢を探し出します。

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自分の気持ちを率直に伝える板倉。「いまの白勢は、自分の愛した白勢の残りカスでしかない。でも、愛している」と。しかし、そんなことを受け入れるには、白勢は若すぎました。これから明るい未来がある18歳の少女なのです。

「救えねぇな、このロリコン野郎!」と叫びながら、板倉の胸に飛び込む白勢。これを最初で最後の抱擁として、二人は別々の道を歩むになります。

まさか「ロリコン野郎」というセリフに、ここまで目頭が熱くなるとは…。

その後、板倉は教師を辞め、ビッチ系の女子と付き合います。相変わらずのロリコンっぷりを発揮しながらも、人間・板倉として女性を愛することを改めて誓うのでした。

切なすぎるロリコンという構造

ロリコンという悪のレッテルを貼り、見ないようにすることはとても簡単。しかし、ちゃんと向き合うことで、その裏にある物語をあぶり出すことができる。

一人の少女を愛し、その少女と結ばれるため時間を積み重ねていっても、自分の愛した「少女」ではなくなってしまう…。ロリコンは構造上、絶対に幸せになれない人種なのです。これは、フィクションでしか描けない真理だと思います。

板倉は最後のシーンで白勢に「裸の写真」を返そうとします。しかし、その写真はブレブレで肌色の塊でしかなかったのです。そんなモノを大切に持ち続けていた板倉。少々歪んではいますが、白勢を愛する気持ちはホンモノでした。

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現在、ロリコンはNGとされています。

ロリコンはNG。
ロリコンを描くこともNG。
ロリコンを描こうとすることを、描くのは…?

ロリコンを題材にすると、こんな禅問答的な問いに立たされることになります。この舞台の複雑な構造も、こんな問いから出発しているのではないでしょうか?

 

ロリコンというと、すぐに「VS.表現の自由」なんて話になりがちですが、ロリコンに真摯に向き合うことで一つの真理を見せてくれた怪作です。また再演してくれることを願って…。

 

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