郵便配達は二度チケットをもぎる

演劇未経験者が、駄文をこねます。

「逢いにいくの、雨だけど」感想:iaku

悲しみにも、救いにも逃げない

f:id:mAnaka:20181203133334j:plain★★★★★★★★★☆ 9点

あらすじ

小学生のとき。幼なじみに負わせたケガのせいで、うちの家もあっちの家も、ままならなくなってしまった。あの事故で何もかもが歪んでしまった。あんなにひどいことになるなんて。あれから長い月日が経ち。あの子は、あの人はどうしているだろう。ときに振り返ってみたり、ときに立ち止まってみたり。それでも日常は進行する。「人生」という尺度を実感出来る歳になって、ようやくわかった。あの事故にまとわりつく罪や遺恨は、きっとどこまでいっても終わりはない。

40歳を手前に、過去の過ちに向き合う「許し」の物語。iakuらしい絶品舞台です。

<ネタバレ>人生とはグレーなモノである

ヒサちゃん」は、アラフォーになっても夢を諦めなかった絵本作家。苦心の末に書き上げた『名探偵・羊のメーたん』が大手出版社の新人賞に選ばれ、ようやく絵本作家としてスタートをします。しかし、『羊のメーたん』は小学校時代に、一緒に絵画教室に通っていた「ジュンちゃん」がデザインしたキャラクターをトレースしていたことが分かります。無意識でやったとは言え、良心の呵責に耐えられなくなった「ヒサちゃん」は「ジュンちゃん」と20年ぶりに逢うことを決意します。

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ヒサちゃん」が「ジュンちゃん」に逢おうと思ったのには、もうひとつ大きな理由が…。絵画教室の郊外活動に行った際、じゃれ合いから「ジュンちゃん」の左目にガラスペンを刺してしまい、それが原因で「ジュンちゃん」が片目を失明するという事故を起こしてしまっていました。「ジュンちゃん」は事故をキッカケに引っ越し。家族ぐるみの付き合いだった2家族は、それ以来交わることなく長い年月が経過していたのでした。

久しぶりの再会にぎこちない二人。しかし、加害者として生きてきた「ヒサちゃん」とは逆に、「ジュンちゃん」はその状況を受け入れて、平凡ながら幸せに暮らしていたのでした。ただし、だからこそ “ごめんね” “いいよ” で割り切れない感情が溢れてきます。単純に「許す」わけにもいかず、ただ「許さない」わけでもない…。

別れ際、「ヒサちゃん」は「ジュンちゃん」に絵本作りを二人で行うことを提案します。ストーリーが得意な「ヒサちゃん」は絵作りに悩んでおり、「ジュンちゃん」と共作を作りたいと。しかし、サラリーマンとして普通に生きる「ジュンちゃん」はその申し出を断ります。おそらく、二度と逢うことはないであろう二人は、それでも名残惜しそうに別れます。

ラストシーン。「ジュンちゃん」はいまでも同居する母親に、「ヒサちゃん」との再会、絵本作りに誘われた件を嬉しそうに語ります。一方で、「ヒサちゃん」も事故以来、疎遠になっている父親と歩み寄りを始めます。少しだけ、再生へのほのかな光を感じさせながら、舞台の幕が下ります。

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珍しく抽象的な舞台で、「事故の前後」と「現在」で、時間軸を入れ替えながら物語が進行していきます。「粛々と運針」と似たような構造になっています。

ヒサちゃん」「ジュンちゃん」の2人の物語だけではなく、それぞれの家族のストーリーも挟み込まれており、非常に重厚。それゆえに、様々な登場人物のココロの動きが胸を打ちます。

もっと大きな絶望(ジュンちゃんがまともな大人になれていない等)や、安直な救い(二人が絵本作家として活動していく)に逃げることも出来たと思います。しかし、人生とはそんな極端なモノではなく、とてもグレーで、だからこそ魅力的であるということを、iakuは教えてくれます。ぜひ人肌恋しいこの季節に見ていただきたい1作でした。