郵便配達は二度チケットをもぎる

演劇未経験者が、駄文をこねます。

「今、僕たちに出来る事。あと、出来ない事。from 2001 to 2018。」感想:シベリア少女鉄道

“できない事”を魅せる

f:id:mAnaka:20180507145051j:plain★★★★★★☆☆☆☆ 6点

あらすじ

高校教師の鳥居一人は、突如 演劇部の顧問に任命されてしまいます。その演劇部は、異常なまでに演劇に“こだわり”を持つ廣瀬希美が演出を務めています。廣瀬の熱量に押されて、他の部員たちは白け気味。しかし、過去に同じような“こだわり”で映画作りに没頭していた鳥居は、廣瀬に感化され、徐々に理想の演劇の実現に向けて協力をするようになっていきます。

しかし、ほのぼのとした高校ライフの裏側で地球にはある危機が…。地球に回避不可能な小惑星が迫っていました。天才科学者の有田瑞生は、「反物質爆弾」を用いた、小惑星の破壊を計画。その実現のために自らのクローンまで作り、地球を救おうとします。

17年前に演じられたシベリア初期作の再演です。
ベタベタな展開のなかに、シベリアらしい毒と仕掛けを盛り込んだ舞台なのですが、これを駆け出しの時代に上演しているのが、本当に恐ろしい…。

<ネタバレ>演劇の構造を疑う

その後の展開を追っていくと、
反物質爆弾」計画はまさかの失敗。小惑星を破壊し尽すことができず、破片が月に激突。地球の崩壊は免れたものの、月が消滅していまい、さらにその影響により女性の生理がこない世界になってしまいます。

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 新しい生命が誕生しなくなった世界になったことで、子ども達のために演劇の作っていた廣瀬は絶望し、AV女優にまで身を落としてしまいます。そんな折、鳥居と廣瀬はナゾの組織に誘拐されます。その組織の指導者は有田博士。子どもが生まれない世界を救うため、クローンの実用化を目指しており、鳥居と廣瀬を実験体にしようとしていました。

ここで、有田博士の同僚である遠藤実が離反。衝撃の事実が明らかになります。実は、有田博士はクローンの世界を作り出すために、わざと月を壊したことが分かります。さらに、鳥居は有田博士が作り出したクローンであると…。

こんな世界を変えるために、鳥居と廣瀬は過去にタイムトラベルし、歴史を変えようとします。そのなかで、実は鳥居は有田博士の「実の子」であり、悲しい過去の経験から、クローンであると思い込んでいただけであることが判明します。

すべての事実が明らかになり、鳥居は有田博士を説得。過去の時間軸で、小惑星をしっかり破壊して大円上。

というのが表面上の舞台です。

では、この舞台でどんな仕掛けがあったのか?
そのカギは、タイムトラベルにあります。

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タイムトラベルする度に、過去と未来の自分が出会ってしまいます。同じ登場人物を2人同時に舞台に上げる必要があります。映画なら編集でどうにかなりますが、演劇ではそういうワケにもいきません。最初は早着替えなどで対応するも、いよいよどうにもならなくなり、仮面を被せた代役が登場。たどたどしいモノマネで突破しようと試行錯誤。

時間軸が複雑に絡み、同じ登場人物が3人以上登場する場面では、ついに等身大パネルが登場。等身大パネル+ナレーションで舞台が進みます。そんなことを繰り返していくうちに、舞台は代役の人形だらけに…。途中から似せる気もない「バルタン星人」や「マリオ」の人形などが登場し、いよいよカオス化。

クライマックスでは、「ここで宇多田ヒカルの書き下ろし楽曲が流れる」「宇宙で小惑星が破壊される迫力の映像」など、脚本の願望がテキストで表示されながら、幕を閉じていきます。

つまり、「(やりたくても)出来なかったこと」をコンテンツ化してしまうというアクロバティックな着地を見せつけられるのです。

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創作への“こだわり”をテーマとして匂わせながら、圧倒的な裏切りに終始ニヤニヤしてしまいます。

演劇とは、限られた演者・限られた道具で「出来ること」を表現する芸術だとすると、この舞台は、限られた演者・限られた道具で「出来なかったこと」を表現してしまっています。

作中に登場する「反物質」ならぬ、「反演劇」です。(もちろん、良い意味で)

今のシベリア少女鉄道を知っているからこそ安心して見ていられますが、これをまだ立ち上げたばかりの時代にやってしまう精神性は異常です。土屋亮一さんが、最初から「演劇」の構造をハックしていることがよく分かります。

 

再演時にこそ、味が出る不思議な舞台でした。最初から再演も想定して作られていたとするなら、土屋亮一の頭脳恐るべし。ぜひ、この「ぶっ壊れ演劇」を劇場で目撃してください。