郵便配達は二度チケットをもぎる

演劇未経験者が、駄文をこねます。

「図書館敵人生Vol.4 襲ってくるもの」感想:イキウメ

人は“自由”たりうるのか

f:id:mAnaka:20180521122207j:plain★★★★★★★☆☆☆ 7点

概要

一つのテーマで短編を上演する「図書館的人生」の第四弾。
今回は、「意識の中の魔物」。

人の無意識に潜む「思い出・衝動・感情」が、時に人に牙を剥く瞬間を捉えています。

上演されるのは3演目。
イキウメらしいSF物語のなかに、とても“人間臭い”ドラマが描かれています。

<ネタバレ>3編のあらまし

それぞれの短編をざっくり追っていくと…

①「箱詰め男」(2036年)

脳外科医の山田不二夫は、アルツハイマーを患ったことをキッカケに、自分の記憶や意識をコンピューターに移植する「マインドアップロード」を実行。箱型コンピューターに乗り移ることに成功します。
そこにロボット工学者である息子の宗夫が帰国するも、コンピューターの父親は、まるでAIスピーカーにようにしか見えません。その原因が五感を失ったことによる「欲望の喪失」だと考えた宗夫は、記憶と最も相性が良い「嗅覚」を復活させるために、“嗅覚センサー”を父親に付けます。

不二夫は「嗅覚」を手に入れたことで、「思い出」を取り戻し、人間らしい感情を復活させます。しかし、コンピューターのカラダでは「思い出」が、リアルに再現され、さらに忘れることができないことが判明します。過去、自分の弟・輝夫と、妻を裏切ったことのある不二夫は、その思い出に侵されるように発狂していく…。

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②「ミッション」(2006年)

山田輝夫は、配達中に死亡事故事故を起こした罪で実刑を食らいます。輝夫は出所後、友人に事故は故意で起こしたことを語ります。頭のなかに「このままスピードを落とさずに交差点に突っ込め」という「衝動」が突如沸き起こり、それに従ったのだと。
出所後の輝夫はこれまで以上に、「衝動」に身を任せます。いつしか、自分の「衝動」は天からのお告げであり、その行動により世界が救われているという考えに支配されていきます。

そんな中、自分と同じ匂いのする二階堂桜と街で何度もすれ違うようになります。そこに「衝動」と同じ運命を感じた輝夫は、ますます暴走。しかし、友人・佐久間一郎に、「それはお前が女に惚れて行動しているだけで、適当な理由を付けて自己満足しているだけだ」と身も蓋もない指摘をされ、呆然と立ち尽くすのでした。これまでの自分の「衝動」を、すべて振り返るように…。

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③「あやつり人形」(2001年)

大学3年生の百瀬由香里は、就活の真っ最中。そんな折、母親・みゆきの病が再発。すべてをリセットしたくなった由香里は、恋人・佐久間一郎との関係を解消し、大学を辞めると宣言します。自暴自棄になった由香里を、兄・清武は説得します。周りの優しさを実感しながらも、由香里はどこか違和感を覚えます。それと同時に、他人の頭の上に隕石のような黒い岩が見えるようになります。

様々な人の感情に振り回される日々。そんななかで、母親の治療をめぐり、自分の優しさが、実は自分の思う方向に相手を誘導する暴力的な側面があることに気づきます。本当の優しさとは、相手がどうなろうと、見守り続けることだと。

優しさの裏にある“支配”が、黒い岩の正体でした。ふと見ると、自分の優しさにまるで「あやつられる」ようにタップダンスをし続ける兄・清武の姿が。そんな兄を、由香里と母は、優しく抱きとめるのでした。

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人間は自由になれるのか?

この3編は、登場人物たちにつながりがあり、「あやつり人形」⇒「ミッション」⇒「箱詰め男」という時間軸でみれば整合性が取れます。さらに、「あやつり人形」では「箱詰め男」を彷彿とさせる1シーンも登場し、物語がループしているような印象も受けます。

しかし、このシカケ自体には囚われる必要はないと思います。

と言うのも、今回の「襲ってくるもの」に登場する人物たちは、「自分の中にある考え」に固執しすぎる結果、痛い目を見ます。そして、その考えから解き放たれ、「自由」を獲得した瞬間に、新しい一歩を踏み出そうとするのです。

今回の舞台でいうと、散りばめられたシカケにこだわり、無理に物語の整合性にこだわることこそが、本来の意味を見失う結果になるのではないでしょうか?
(イキウメファンなら、ドキリとする“時枝”なども登場しますが、そこにも意味はない)

様々なモノから一歩ひいて、自由になること。自由意志なんてモノは存在しないのかもしれない。無意識を含めて、現代を生きる人々は様々なモノに影響されてしまうから。でもだからこそ、人はもっと自由でいい。

そんなことを訴えかけている舞台だった気がしています。

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イキウメの舞台は、短編が長編に、長編が短編に、どんどんと進化を続けていきます。今回の「襲ってくるもの」が、今後どのように発展していくのか…。

当日券もあるようなので、ぜひ劇場へ。

 

“概念”を奪われるという、本公演にも繋がる「散歩する侵略者」の原作本はこちら。

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